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賃貸の更新で家賃の値上げを言われたら?値上げは断れる?交渉と対応の順番を現役宅建士が解説

賃貸の更新で家賃の値上げを言われたら

賃貸の更新時期が近づいたとき、こんな通知が届いたことはありませんか。「次回更新より家賃を〇万円に改定させていただきます」――。突然の値上げの知らせに、どう返事をすればいいのか迷う方は少なくありません。今回は、賃貸の更新で家賃の値上げを言われたときの対応を、交渉の順番に沿って解説します。

maiです。賃貸一筋20年の宅地建物取引士で、賃貸不動産経営管理士の資格も持っています。年間約200本の賃貸借契約に携わる中で、更新のたびに家賃の話で揉める場面を何度も見てきました。現場の感覚も交えながら、落ち着いて対応するための手順をお伝えします。

この記事はこんな方におすすめです

  • 更新の案内に値上げが書かれていて、どう返事をすればいいか分からない方
  • 値上げは断れるのか、断ったらどうなるのか知りたい方
  • 値上げ幅が妥当かどうか、自分で確かめたい方
  • 交渉の言い方や文例がほしい方
  • 引っ越しと比べてどちらが得か迷っている方

結論:賃貸の家賃値上げは合意がなければ成立しません

先に結論です。賃貸の家賃値上げは、貸主が一方的に決めて押しつけるものではありません。借主と貸主の合意があって、はじめて新しい家賃になります。だから、納得できない値上げには「応じられません」と断ることができます。

断ったからといって、すぐに部屋を出なければならないわけではありません。従来の家賃を払い続けていれば、住み続けることができます。

  • すぐ署名・押印しない
  • 理由と根拠を書面で聞く
  • 従来の家賃を払い続ける
  • 困ったら公的な相談窓口に相談する

なお、この記事は一般的な情報です。契約書の特約や個別の事情で結論が変わることがあります。揉めそうなときは、自治体の相談窓口や弁護士に個別に相談してください。

なぜ今、賃貸の更新で家賃の値上げが増えているのか

物価や人件費、修繕費の上昇が続く中で、建物を維持するための費用が上がっています。固定資産税などの負担の変化や、周辺の相場の上昇も、値上げの理由として挙げられることがあります。東京都も2026年に、オーナーチェンジを契機とした家賃値上げトラブルについて注意喚起を出し、相談が増えていると伝えています。オーナーが変わると方針が変わり、更新のタイミングで値上げを持ちかけられるケースがあるのです。

実務の感覚では、値上げの主な理由は相場です。周りの家賃が上がっているのに、1件だけ据え置きにすると、オーナーとしては損をしているような感覚になります。税金やコストの上昇も理由にはなりますが、主役は相場だと考えてください。

現場の感覚で言うと、値上げの通知は「相場が上がっているから」という一言だけのことも多いものです。でも、相場が上がっていることと、あなたの部屋の家賃が不相当であることは、イコールではありません。ここを切り分けて考えるのが、交渉の出発点です。

更新の案内が届いたら、まずやること

  • 通知の内容を書き留める(いつから、いくらに、理由は何か)
  • 契約書と更新時の書面を読み返す(特約の有無を確認する)
  • 自分の契約が普通借家か定期借家かを確認する
  • 焦って署名・押印しない

まず確認すること:通知の内容、契約書の特約、普通借家か定期借家か

まず、通知の内容を整理してください。いつから、いくらになるのか、理由は何か。口頭だけの話なら、書面でもらうようにお願いしましょう。更新日、通知日、新しい家賃、理由の4点が分かれば、その後の話がずっとしやすくなります。

次に、契約書の特約です。「賃料は増額しない」といった特約がある場合は、その定めに従うとされています。契約書と更新時の書面を読み返し、家賃に関する特約がないか確認してください。

そして、自分の契約が普通借家か定期借家かも大切です。普通借家は更新があり、貸主が更新を拒むには正当事由が必要です。値上げに応じないことだけを理由に、更新を拒むことはできません。一方、定期借家は期間満了で終了し、住み続けるには新たな契約が必要です。契約書の種類と期間の欄で、どちらかを確認してください。

オーナーが変わった場合の注意点

建物のオーナーが変わっても、それまでの賃貸借契約は新しいオーナーに引き継がれます。だからといって、新しいオーナーがいきなり大幅な値上げを押しつけられるわけではありません。値上げにはやはり合意が必要ですし、理由と根拠の説明を求めることができます。「オーナーが変わったから」というだけでは、値上げの理由にはなりません。

私の現場では、オーナーチェンジをきっかけに値上げをするということはありません。オーナーチェンジ後の値上げがよくあるように見えるのは、そうした事例がニュースになりやすいからだという見方もあります。いずれにしても、オーナーが変わったこと自体が値上げの理由にはなりません。

賃貸の家賃値上げは断れるのか。断って従来の家賃を払い続けたらどうなるのか

断ることはできます。合意がなければ値上げは認められず、借主は応じる必要がありません。従来の家賃を支払えば、居住を継続することができます。これは東京都の説明でも示されている考え方です。

もし貸主が従来の家賃の受取りを拒む場合は、法務局への供託という方法があります。供託すれば、支払ったものとして扱われます。手続きの詳細や自分のケースに当てはまるかどうかは、法務局や相談窓口で確認してください。

気をつけたいのは署名です。更新の書面に新しい家賃が書かれているのに、よく読まず署名・押印してしまうと、合意したことになりかねません。分からないまま署名しない。期限を区切られても、焦ってサインしないことが大切です。

現場の話をすると、更新書類と一緒に「新家賃での更新承諾書」が紛れていることもあります。書類は1枚ずつ、金額の欄だけは必ず自分の目で確認してください。金額の欄が空欄の書類には、絶対に署名しないことです。

金額の妥当性の見方:近隣相場の調べ方と値上げ幅の考え方

借地借家法32条では、家賃の増減額請求が認められる事情として、次の3つが挙げられています。①土地・建物に対する租税その他の負担の増減、②土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動、③近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき。

値上げの理由がこのどれに当たるのか、貸主に具体的に聞いてください。「相場が上がったから」だけでは、根拠としては弱いのです。

近隣相場の調べ方は、ポータルサイトで同じ駅・同じ間取り・築年数が近い物件の募集家賃を数件比べることです。自分の部屋の広さ・階数・設備も考慮に入れてください。ただし、募集家賃はあくまで募集の金額で、成約の金額とは違うことにも注意が必要です。

値上げ幅は、何%上がるかで見ると分かりやすいものです。たとえば家賃80,000円が85,000円になる場合、増額は月5,000円、率にして約6.3%、年間では60,000円の負担増です。相場と比べて明らかに高いのか、相場に近づく程度なのかで、交渉の力の入れ方が変わります。

現場では、1回の値上げ幅はおおむね10%までで収めるのが通例です。10%を超えるような場合は、1回の更新で一気に上げるのではなく、複数回の更新に分けて段階的に上げる形を取ります。もっとも、すべての物件が値上げになるわけではなく、物件ごとに1件ずつ見て、上げるかどうかを判断しています。

段階的に上がる家賃のイメージ:階段を上る家

根拠の聞き方は、メールなど記録に残る形で聞くのが安心です。「固定資産税が具体的にいくら上がったのか」「近隣のどの物件と比較したのか」を、数字で示してもらうようにお願いしてみてください。

交渉の進め方と文例:丁寧に、でも根拠を求める

交渉の順番は、①理由と根拠を聞く、②相場を調べる、③自分の希望を伝える、④合意したら書面に残す、です。感情的な言葉は避け、数字と事実で話すのがコツです。「高いから嫌だ」ではなく、「近隣の相場はこのくらいです。根拠を教えてください」と伝えるほうが、話は進みます。

現場では、値上げの通知を受け取った入居者の多くは、とくに揉めることなく受け入れるケースがほとんどです。一方で、ごく一部の、こだわりの強い方から長く抗議を受けることもあります。根拠を求める丁寧な交渉は、決して珍しいものではありません。

メール文例は次のような形です。相手を責めず、根拠を求める言い方にしています。

件名:更新に伴う家賃改定についてのお願い
お世話になっております。更新のご案内を拝見し、家賃の改定についてご連絡いたしました。改定の理由と根拠について、具体的に教えていただけますでしょうか。たとえば、租税公課の負担の変化や、比較された近隣の物件などがあれば、参考にさせていただきたく存じます。なお、現行の家賃での更新を希望しておりますが、ご検討いただけますでしょうか。お手数をおかけしますが、よろしくお願いいたします。

落としどころの例としては、希望額での据え置きが難しい場合に、増額幅を小さくする、一定期間だけ据え置く、更新料やその他条件とあわせて調整する、といった形があります。ただし、口約束ではなく、合意内容は必ず書面に残してください。合意書に金額と適用開始日が明記されているか、署名前に確認することです。

テーブルで書類について話し合う入居者と担当者

現場のホンネ:値上げ幅と交渉の実際

現場のホンネとして、実際に多い落としどころは、提案額の半分程度の増額でまとまるケースや、更新料を半額にするケースです。また、今回は据え置きにして、次回更新で満額にするという形で合意するケースもあります。

落としどころメモ
提案額の半分程度の増額提案額の半分ほどでまとまることが多い
更新料の半額更新料を半額にすることで合意するケース
今回は据え置きで次回満額今回は据え置きにし、次回更新で満額にする

なお、提案される金額は、基本的にその物件にとって適正と判断された家賃です。交渉で値切られることを見込んで、わざと高めに提示しているわけではありません。根拠を聞いたうえで、自分の希望額を具体的に示すことが、交渉の近道になります。

管理側からの交渉のコツとして、入居者の側が「いくらなら受け入れられるか」を具体的に伝えると、話は早く進みます。逆に、値上げを全面的に凍結してほしいというだけの要望は、話が進みにくくなる傾向があります。

更新の交渉全般については、値下げ交渉のコツを解説した記事も参考になります。関連記事:賃貸の契約更新。家賃と更新料、値下げ交渉のコツ、タイミングは? この記事は値上げへの対応に絞っていますが、交渉の進め方やタイミングの考え方は共通する部分が多くあります。

更新料と家賃値上げは別物です

更新のときに混乱しやすいのが、更新料と家賃値上げの区別です。更新料は、契約更新の際に借主が貸主に支払う一時金で、契約書に定めがある場合に発生します。一方、家賃値上げは、毎月の家賃そのものの変更です。更新料を払うから値上げも当然、というわけではありません。更新料の有無・金額と、新しい家賃の金額は、それぞれ別に確認してください。

交渉で避けたいことと、記録の残し方

避けたいのは、家賃の支払いを止めてしまうことです。値上げに納得できない場合でも、従来の家賃は払い続けることが大切です。支払いを止めると、こちらが不利な立場になりかねません。また、担当者を怒鳴る、脅すような言い方をするのも、交渉をこじらせるだけです。丁寧に、しかし譲れない点ははっきり伝える姿勢が、結果として通りやすいものです。

記録も残しておきましょう。値上げの通知書、契約書、更新時の書面は捨てずに保管し、担当者とのやり取りはメールなど記録に残る形を基本にしてください。電話で話した場合は、後で「本日のお電話では、〇〇と伺いました」とメールで確認するだけでも、後々の食い違いを防げます。

住み替えと比較する:増額を飲むか、引っ越すかの簡単な計算例

家賃80,000円が85,000円になる場合、増額は月5,000円、年間60,000円、2年で120,000円です。更新料が家賃1か月分(85,000円)なら、2年間の住み続けコストは増額分120,000円+更新料85,000円=205,000円です。

項目金額
家賃(改定前→改定後)80,000円 → 85,000円
月の増額5,000円
年間の増額60,000円
2年間の増額分120,000円
更新料(家賃1か月分)85,000円
住み続けの2年コスト(増額分+更新料)205,000円
住み替えの初期費用(目安)約320,000円前後

更新料の有無・金額は契約次第なので、自分の契約書で確認してください。

引っ越しの場合は、敷金・礼金・仲介手数料・火災保険などの初期費用、引っ越し業者の費用、インターネット回線の移転・新規申込みの手続きなどがかかります。仮に初期費用が家賃の4か月分程度なら、80,000円の部屋で約320,000円前後になり、単純計算では2年間の増額分を上回ることもあります。ただし、新しい部屋の家賃が下がれば話は変わります。自分の条件で計算し直してください。

比較のポイントは、家賃の差額だけではありません。通勤時間、部屋の広さ・設備、更新料の有無、引っ越しの手間も含めて考えてください。引っ越しを検討する場合は、複数の業者から相見積もりを取って費用を比べることが大切です。引っ越し前の手続きについては、引越前・入居前にやるべきことをまとめた記事も参考になります。関連記事:賃貸の引越前、入居前に必ずやるべき事、用意したいアイテムを紹介。

現場では、値上げが原因で退去する方は、おおむね3%程度という感覚です。ただし、退去の理由がすべて管理側に見えているわけではないため、実際の割合はもう少し高い可能性もあります。値上げを飲むか引っ越すかは、この数字だけで決めず、自分の家賃差額と引っ越し総額で比べてください。

引っ越しを検討する場合は、部屋探しの手順を整理した記事も役立ちます。関連記事:賃貸物件 部屋探し手順まとめ 10step 引っ越し先の条件整理や内見の手順がまとまっています。

インターネットの手続きも忘れずに。引っ越しでは回線の移転や新規申込みが必要になり、工事の予約が混み合う時期もあります。引っ越し日が決まったら、早めに手続きの確認をしておくと安心です。

住み替えと住み続ける場合の費用の比較

相談先:話し合いがまとまらないとき

東京都の賃料値上げ特別相談窓口(03-5320-4958)や不動産取引特別相談室(03-5320-5015)など、公的な相談窓口があります。お住まいの自治体や消費生活センターでも相談できます。相談は無料の場合が多く、まずは電話で状況を整理してもらうだけでも違います。

話し合いがまとまらなければ、民事調停という手続きがあります。裁判所での話し合いの場で、第三者を交えて解決を目指す方法です。最終的には訴訟という方法もありますが、まずは調停や相談窓口の利用を検討してください。個別の紛争については、弁護士への相談も視野に入れてください。

更新までのタイムライン:焦らず進める順番

更新の案内が届いたら、更新日までの流れを意識してください。まず通知と契約書を確認し、次に理由と根拠を書面で聞きます。その間に近隣相場を調べ、自分の希望をまとめます。交渉は、更新日の直前になってから慌てて始めるより、1か月程度の余裕を持って始めるほうが落ち着いて進められます。合意できたら、金額と適用開始日を書面で確認してから署名します。合意できない場合は、従来の家賃を払い続けながら、相談窓口に相談するという流れです。

よくある質問

Q:更新を断ったら退去させられるのですか。A:普通借家の場合、値上げに応じないことだけを理由に更新を拒むことはできません。ただし、契約の種類や特約によっては異なるため、契約書を確認し、不安な場合は相談窓口に相談してください。

Q:家賃の支払いを止めて抗議してもいいですか。A:おすすめしません。従来の家賃は払い続けることが大切です。支払いを止めると、こちらが不利な立場になりかねません。

Q:値上げ幅に目安はありますか。A:一律の目安はありません。近隣相場や、租税負担の変化、経済事情の変動といった事情を総合して判断されます。自分の部屋の条件と近隣相場を比べて、増額幅が相場に近づく程度なのか、相場を大きく上回るのかを見極めてください。

まとめ

  • 賃貸の家賃値上げは、合意がなければ成立しません
  • すぐ署名・押印しないで、理由と根拠を書面で聞きましょう
  • 従来の家賃を払い続けていれば、住み続けることができます
  • 近隣相場と増額幅を自分で確かめましょう
  • 合意したら、金額と適用開始日を書面に残しましょう
  • 話し合いがまとまらなければ、相談窓口・調停・弁護士の検討を

値上げの通知が届くと、つい焦ってしまいます。でも、順番を間違えなければ、落ち着いて対応できます。まずは通知と契約書を確認し、理由と根拠を聞き、相場を調べる。そのうえで、自分の希望を伝えてください。無理な値上げには、断るという選択肢があることを覚えておいてください。

ではまた。